イビチャ・オシム氏(以下敬称略)が、2007年11月に脳梗塞で倒れてから1年弱が経ちました。彼の不在がもたらしたものを語ろうとしても全てがifでしかないのですが、日本サッカー界が失ったものは大きいと感じます。そんなオシムがTVカメラの前に久々に姿を現しました。スカパーの特番「オシムが語るUEFAチャンピオンズリーグ」のために後藤健生氏との対談を引き受けたのです。以下、番組で語られたオシムの言葉を文字起こしします

-やっぱり今年もイングランド勢が優勝に絡む?

「そう予測するのが簡単だ、それはオリンピックの卓球における中国のようなものだ、あれだけ選手層の暑いチームが4つ集まれば必然的に上位に何チームかは上位に残るだろう」

「最もお金を持っているイングランドが最高のリーグをもっているのは不思議でない。でもわたしはイタリア勢が戻ってくることを望む。彼らは余りにも早く敗退している。」

-イタリアというとチャンピオンズリーグで10年前には常にタイトルを取っていた。イタリアの中でどこを注目したいですか?

「選手名だけ見たらインテルが最も優勢だ。モラッティ会長は最高の選手を買い集め、モウリーニョを連れてきた。モウリーニョが成し遂げたことを知らない選手はいない。彼の戦術ややり方に文句を言える選手はいない。」

「重要なのはモウリーニョと選手との関係だろう、最初で失敗すれば関係が難しくなるかもしれない。昔カペッロが言っていたが、イタリアではどんな名称であっても監督であり続けることが難しいんだ、戦術に関して言えば新しいことが通用しない国だ。それが本当のことかモウリーニョには証明して欲しいね。セリエAの開幕戦ではインテルはホームで引き分けた。でもそううまくいくことではない。モウリーニョ本人がプレイするわけではないからね」

-スペインの2チームなんですが

「シュスター(レアルマドリード監督)は自分の考えを貫いて、成功を収めている人物だ。現役時代もそうだった。特別な選手だったよ。一般的にすばらしい選手だった監督は何とかして自分の考えを選手に伝えようとするものだ。そういう意味ではバルセロナも幸運かもしれない。なぜならグアルディオラの現役時代のプレースタイルがこれから若いチームにもたらされていくわけだから。彼がボールを配球してポゼッションを高めていくことをね。」

「グアルディオラはクライフ監督時代のバルセロナでプレイして、わたしは当時のトレーニングを見たことがある。チャンピオンズカップでもすばらしいパスを出していたね。きっとバルセロナはクライフがいた頃のプレイをするはずだ。」

-オシムが期待するジャイアントキリングは

「わたしたちの国のことわざに、"弾丸が大砲の中で爆発するのは可能だ"というものがある。つまり、サプライズは可能だということだ。ポルトガルやトルコ、ギリシア、どこの国でもサプライズを起こせるんだ。だから今年のチャンピオンズリーグはクオリティの高いものになるだろう。」

「サプライズとは初出場のチームが大会をかき回すことだ。わたしが見たところそれをやってくれそうなのはロシアのゼニトだ。彼らは今までチャンピオンズリーグに出ていなかったが唯一サプライズを起こせる力を持っている。監督はいくつかのチームをチャンピオンズリーグに導いたアドフォカートだ。さらに選手の殆どは代表選手だった。ゼニトはそのチームの戦力を昨シーズンから維持している。」

「ロシアンプレミアリーグはヨーロッパでも優れたリーグの一つだ。イングランドやイタリアといったほかのリーグにも匹敵するだろう。」

「ロシアはいつもいいプレイをしている、それは偶然ではない。かつては今ほどお金が投資されなかったにも関わらずだ。それが今では莫大な金額が投資されている。そしてサッカーが進歩している。彼らは常に政治が問題を抱えていたが今では生活が安定した。それは中国にも言える。中国も近い将来先進国のレベルに達するかもしれないね。人は費やした金額だけ見返りを求めるものだからたいていはそれなりの結果となって帰ってくるものだ。ソ連にしてもロシアにしても大きな国だ。今まで大きな大会で彼らがいなかったことがある会?伝統的にもスポーツ大国だ。いつもアメリカとソ連がスポーツで争ってきた。スポーツとは何なのか。ゼニトは今シーズンでも危険な存在だと。自分の考えを浸透させる事のできる監督がいる。」

-例えばゼニトだと、レアルマドリード・ユベントスと同じグループだ。それらを倒すことができるか

「本来サッカーに珍しいことは必要ないんだ。強いチームが勝つ。多くの人はそれを望んでいる。でも珍しいことがわたしは好きだよ。ビッグクラブは好きなだけ選手をそろえることができるけど、それでは監督にとって努力をしたんだといえなくなってしまう。ゼニトはアドフォカートという監督がそれを解決させていると思う。わたしはゼニトがグループリーグでユベントスにもレアルマドリードにも勝って欲しいと思うよ」

-ここ4シーズン連続で決勝に進んでいるイングランド勢について

「(例えばリバプールというチームはリーグで低迷してもCLで力を発揮する、これは選手の特性なのかベニテス監督の特徴なのか)リバプールというのはヨーロッパで最もトロフィーの多いチームの一つだ。その一方でベニテスは非常に頭のいい人物で多くのいい選手を連れてきた。ヨーロッパの戦いでどのように戦うかわかっている。だから彼はある時期5.6人のすばらしいフォワードを抱えていた。チームが持ちこたえるため選手を使い分けてきた。毎試合ターンオーバーをすることができたんだ」

「(マンチェスターUについて)ファーガソンは問題が起こったとき、ただ手をこまねいているような人間ではない。彼は常に成功を求めていて、現時点で何が問題で何をやるかをわかっている。それは新しい選手を連れてくることだ。国内リーグでもチャンピオンズリーグでも必要なときに備えて同じポジションに何人も選手を獲得することができるんだ。C・ロナウドが怪我したときに、ルーニーもテベスもいる。全てを買うことができるんだ。そのことに関して誰かがとやかく言うことではない」

「(ベルバトフはチームにフィットできるか)お金があるチームというのは、物事をそうやって解決することができるんだ。同じことを繰り返していたらチーム力を維持できないということを彼は知っている。だからファーガソンは毎年のようにチームを新しくしているんだ。ファンも新戦力を獲得することを期待している」

「(オシムが最も評価しているアーセナルについて、アーセナルは昨シーズンに失速したがそのサッカーについて)アーセナルには哲学というものがあって多くのトレーニングをこなしている。ベンゲルは自分のビジョンというものを持っていて常にそれをあきらめない。常に美しいサッカーを追求している、そしてそのようにトレーニングをしている。それがこのクラブの哲学なんだ。観客のために美しいサッカーをしながら、またプロフェッショナルとして『勝つ』サッカーをしてきたんだ。何か問題があれば彼らはトレーニングでそれを解決してきた。ベンゲル監督の考えとビジョンに沿ったトレーニングが行われている。その全てを選手が受け入れてきた。そこでちょっとでも成功すればチームはフィットするものだ。つまりそれは現代的なチームだ」

「わたしが思うに今のアーセナルは、クライフの下で成功していたバルセロナに似ている。なぜならクライフもいつも美しいサッカーをしろと選手たちを駆り立てていたからだ。彼はそうするために練習方法を変えなければならなかった。トレーニングを根本から変えなければならなかった。選手たちは求められるプレーをするために、練習をしなければならない。勿論成功するために幸運も必要だ。そうすれば何かしら前進したことが見えるはずだ。それと同じことをアルセーヌ・ベンゲルは成し遂げた。いっそ彼の名前を取って『アルセーヌ・アーセナル』にしたらどうかね」

「(監督という面ではチェルシーにブラジル人監督が来ました。スコラーリ監督について)2試合ほど見たんだが昨シーズンとは違うプレーをしていた。よりパスを出そうとしているしより危険な存在になっている。全員がピッチのどこでも球際に強いのは、チェルシーはいい選手がいるからだと皆さんは誤解しているかもしれないが、いい選手というのはサッカーのやり方を知っていて、自由を与えられたときでも常にボールを動かしている。かつてはロングボールに頼っていたが、いまはパスを出してボールを動かしている。つまり全てが可能なんだ。スコラーリは変革をして選手の頭を切り替えさせた。戦術的にも技術的にも最高の選手が揃っているときに、選手に自由を与えてうまくいくのなら、相手チームにとってこんな脅威なことはない。」

-どこが優勝すると思いますか?

「どこが優勝するかって?それがわかるなら、今ごろ病院の中にはいないよ。どこに優勝してほしいといわれればゼニトと答える。速くて現代的なサッカーをしようとしている。ゼニトは一服の清涼剤のようで、暑い日にレモンをいれたような水のようなものだ。それがゼニトだ。それに加えてサンクトペテルブルクはヨーロッパで最も美しい街のひとつだ。機会があれば是非訪れて欲しい」

-日本代表の現状について

「日本代表のときわたしは選手やコーチたちにこういっていた、その時点で自分が最もよいと思ったことを自由にやりなさいと。つまり、何が最高であるかを自分で考えるように仕向けたんだ。しかし、それだけ自由があることに慣れていなかったので、まったく頭が働かなかった。問題は日本人が自分で考えようとするときに、あまりにも情報を集めようとしすぎることだ。バーレーン戦ではいろいろあったみたいだけど、日本は実力があることを自分自身が知らなければならない。日本はアジアのどのチームよりも優れていると考えた方がいいだろう。余りにも敵を恐れてしまってるんじゃないか?日本が誰かを恐れたりする状況になる必要はないんだ。とりわけ監督はそうだ。やってきたことを信じなければならない。日本はサッカーでは大国とはいえないかもしれない。しかしどこが相手でも対抗できる。」

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